だめでせう
とまりませんな
がぶがぶ湧いてゐるですからな
ゆふべからねむらず
血も出つゞけなもんですから
そこらは青くしんしんとして
どうも間もなく死にさうです
けれどもなんといい風でせう
もう清明が近いので
もみぢの嫩芽(わかめ)と毛のやうな花に
秋草のやうな波を立て
あんなに青空から
もりあがつて湧くやうに
きれいな風がくるですな
あなたは医学会のお帰りか何かは判りませんが
黒いフロックコートを召して
こんなに本気にいろいろ手あてもしていたゞけば
これで死んでもまづは文句もありません
血がでてゐるにかゝはらず
こんなにのんきで苦しくないのは
魂魄(こんぱく)なかばからだをはなれたのですかな
たゞどうも血のために
それを言へないのがひどいです
あなたの方から見たら
ずゐぶんさんたんたるけしきでせうが
わたくしから見えるのは
やつぱりきれいな青ぞらと
すきとほつた風ばかりです
今日山の中を走っていて、宮沢賢治のこの詩(心象スケッチと呼ぶべきか)を考えたとき、坂口安吾はいったいどれくらいこれにインスパイアされたのか考えた。
1 教祖の文学
本当に人の心を動かすものは、毒に当てられた奴、罰の当つた奴でなければ、書けないものだ。思想や意見によつて動かされるといふことのない見えすぎる目などには、宮沢賢治の見た青ぞらやすきとほつた風などは見ることができないのである。
2 外套と青空
太平は倉庫のコンクリートに押しつけられて、拳に頤(あご)を突きあげられてゐた。その痛さに一瞬気を失ひさうになりかけたが、その時チラと見た泌みるやうな青空の中に、キミ子の真白な腕と脚を見たのであつた。
3 ジロリの女
わけてもヤス子はいとしかった。上高地で見た大正池と穂高の澄んだ景色のように、人の心も、その恋も澄む筈だと云った。あのリンリンたる言葉を、美しい音楽のようにわが耳に思いだして、私の心はいとしさに澄み、そしてひろびろとあたゝまる。
4 夜長姫と耳男
オレは夜長ヒメを見つめた。ヒメはまだ十三だった。身体はノビノビと高かったが、子供の香がたちこめていた。威厳はあったが、怖ろしくはなかった。オレはむしろ張りつめた力がゆるんだような気がしたが、それはオレが負けたせいかも知れない。そして、オレはヒメを見つめていた筈だが、ヒメのうしろに広々とそびえている乗鞍山(ノリクラヤマ)が後々まで強くしみて残ってしまった。
多分にこじつけではあるけれど、同じ匂いがする。
今日は呑んでますりゅうさん。
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